きのこ帝国
きのこ帝国が無期限で活動を休止した。
時が止まるらしい。
今、止まっているらしい。
これをロスというのだろうか。喪失感……?
何となく違う気もする。
きのこ帝国に出会ったのは5年前、高1の頃だった。
初めて人にフラれた。確か三連休前にフラれて最初の2日は1人で誰にも見られない様に夜、部屋のベッドでずっと泣いてた。もう好きになってもらえないことが悲しくて、いっそ嫌いになってほしくて、フラれたことが悔しくて、ちゃんとフル理由を尋ねられなかった自分が腹立たしくて、ずっと泣いてた。back numberの花束とかfishとか、HYの325日とかめっちゃ聴いてた。聴いては泣いての繰り返しで、今まで何で失恋ソングが人気なのかわからなかったけど、泣きたい時に泣かせてくれる曲ってこんなに必要だったんだって身をもって知った。
3日目は泣くことに飽きて、疲れて、ただ新しい音楽を聴きたくて、新しい曲のイントロを数秒流して気に入らなければ次の曲っていう、アーティストへの冒涜みたいなことをやっていた。
そんな時、きのこ帝国の「海と花束」という曲に出会った。イントロのリードギターが衝撃的で、歌詞の出だしもあまりに衝撃的で、ひと聴き惚れだった。
「伝えたいことなどとっくのとうに無い
錯覚起こしてる ただそれだけなんだよ
ごめんね」
女性シンガーの高くて透明感のある声でこんなに尖ったことを歌っていることがますますこのバンドへの興味を誘った。
失恋で色々考え過ぎて疲れて、心が乾いた時、内から水を、心の海を染み出させてくれる感じに当時の私はとても救われていた。
そして「夜が明けたら」という曲を聴いて心は大丈夫になった。色んな気持ちを肯定してくれている気がして安らぎを感じた。初めて聴いた時、悲しくてとか悔しくてとかじゃなくて、なんかわからないけど涙が流れてた。
音楽に初めて救われた瞬間だった。
それからずっと好きで聴いていた。「渦になる」と「ロンググッドバイ」のアルバムは特に聴いていた。「クロノスタシス」や「東京」などと新曲が出る度に変わっていくきのこ帝国の姿があった。もっと暗いものや尖ったものを求めていた時に明るめの曲が公開されると好きになれなくて、距離をとった。
でも、数カ月後なんとなく今かなって思って改めてちゃんと曲を聴いてみると良さがわかるということもあった。「怪獣の腕の中」とかがもろそうだった。
自分の中で適度に距離をとって一緒に生きていた。
受験が終わり、ある程度自由になって初めて自分でライブというものに行った。大学の友達と行った。
きのこ帝国の「夢みる頃を過ぎても」というライブ。グッズを買った。何をどうすればいいのかわからなくてシンプルなロゴの入った紺色のトレーナーとライブタオルとスマホケースを買った。欲しい物を予算ギリギリで買った。満足だった。初めてきのこ帝国を生で見て聴いて、拍手や手拍子、一体感みたいな手を挙げるやつをやるので精一杯だった。心が感動でいっぱいいっぱいだった。帰りはあまりきのこ帝国を知らない友達にしたり顔で色々きのこ帝国について話した。あの時の私はめっちゃ嫌なヤツだったけど、我慢ができなかった。嫌な顔一つせずに話を聞いてくれた友達に、ありがとうを言おうと今思った。ずっと言えていない。言わなきゃ。
その同じ年に10周年ということでツアーをやったから、それにも参加した。親友と行った。「タイムラプス」のアルバムもちゃんとあらかじめ買って聴いていた。ライブ前にグッズを買うために早く並んで、悩みに悩んだ末、ライブTシャツ、タオル、帽子、バッジを買った。バッジはアルバムの数だけあるからライブに行く毎に一つずつ集めることにして、私は「ロンググッドバイ」の青と白のお花のバッジを、親友は「猫とアレルギー」のピンクと黒のバッジを買った。そして親友とライブではしゃいだ。
楽しかった。めっちゃくちゃ楽しかった。
帰りは2人であれが良かったこれが良かったとか言ってきのこ帝国の鼻歌なんかお互い歌って帰ったな。
そして昨日、いやもう一昨日か、無期限の活動休止ということを聞いた。
人との連絡以外あまりツイッターを最近開かなくなった私に、ライブに一緒に行った親友が教えてくれた。
衝撃だった。
1番自分の中で衝撃だったのは、
全部過去になるんだ
ということ。
救われたあの瞬間も、ライブでの感動や興奮も、堕落した自分と向き合えなかったあの頃も、生きることを許されたかったあの感情も、人への慈愛を知った時も、
全部どうしようもないくらい過去なんだ。
これから距離を取ることも、一緒に歩んで変わっていくこともできないんだ。
「猫とアレルギー」という曲をイメージして描いている猫を同封しようと思っていた書きかけのファンレターは平成のうちに送ろうと思っていたが未だ書きかけのまま。
私自身、色々人生を進めていたから仕方ない部分はあった。
色々心の整理ができたら、また描こうと思う。
私の内なる暴力性を昇華してくれるバンドは、世界で唯一、きのこ帝国だけだった。
初めて胸を張って、「ファンです」と名のれるほど追いかけて、好きで、一緒に生きてきたバンドだった。
4人とも優しいから、また会えるかもしれないという希望をもたせてくれるような締めくくりのメッセージだったけれど、私にはわかっていた。いや、たぶん大部分の人はわかっていると思う。
再活動はたぶんもうない。
文面の端々に滲み出ていた永遠のお別れ感。
自分のパフォーマンスに満足してしまって離れてしまったら、きっともう戻らない。
悲しいけれど、たかが一ファンとして好きなアーティストの今後に良いも悪いも口出しできない。優しい4人だからこそ、ファンのぼやきとかを一から十まで全部受け止めようとするから、絶対に今何かを確実に伝わる方法で発信してはいけない気がしている。
今、少し自分の心を整理したくてこれを書いている。
今、変わらないことはきのこ帝国は確かに私の一部になっているということ。
今、1番心から思うことは
新しい人生を見つめている
しげさんに、
新しいステップをアーティストとして歩んでいく
佐藤さんに、
あーちゃんに、
コンちゃんに、
幸あれ。